Interview

夢をあきらめない
働き方がここにある。

女子格闘家として19年にわたり第一線で活動。柔術・総合格闘技で実績を重ねる一方、デイサービスやわらに10年勤務し、現在は管理者として現場と運営を担う。
まさに競技と介護を両立する生き方を体現している様子を紹介します。

◆◆◆

富松さんが所属するのは、デイサービスやわら。利用者主体のきめ細やかなケアと機能訓練に力を入れている、地域密着型のデイサービスです。運動スペースの拡大や多様なマシンで身体機能の維持向上を目指し、また来たいと思えるような明るく笑顔のあふれるサービスを提供しています。 

インタビュー動画 介護WITH総合格闘家 夢は仕事を理由にあきらめなくていい 「やりたいことは、まずやってみる」 デイサービスやわら 富松恵美さん

社会人になって、やりたいことが遠のいていく。
練習する時間がない。体力が残らない。生活の不安が先に立つ。
「夢は目指したいけど、仕事があるから仕方ない」そう言って自分を納得させながら、少しずつ断念していく人は少なくない。

女子格闘家として19年。試合は年に数回、練習は週6〜7日。
それでも彼女は、介護職として週5日フルタイムで働き、デイサービスの管理者として現場を回している。

“闘う”と”支える”。一見すると相反してるような二つの役割を、彼女は同じ生活の中に置いている。そこにあるのは、根性論ではなく「無理なく両立できる働き方」のリアルだった。

富松恵美さんの1日のタイムスケジュール 仕事と格闘技練習の両立

おじいちゃん、
おばあちゃん子だったから、
介護はぜんぜん平気でした。

介護の仕事に飛び込むとき、多くの人が最初に感じるのは不安だ。
きつそう。大変そう。自分にできるのだろうか。
世間に流通しているイメージが、経験よりも先に頭を支配する。
でも富松さんは、少し笑って言う。

「みんな、うちのおじいちゃんとおばあちゃんみたいな感じだから別にって。ぜんぜん平気でした」

幼い頃から、おじいちゃん子・おばあちゃん子だった。高齢者と過ごす時間は、特別なものではなく、日常の延長だった。
最初は週3回、数時間からの勤務。いきなり背負い込むのではなく、生活の中に少しずつ介護を置いていった。

「行ってみて、あ、こういうとこなんだって。思ってたより、すぐ慣れましたね」

介護は、構えて臨む世界ではなかった。誰かと関わり、声をかけ、同じ時間を過ごすことは、彼女にとって普通のことだった。

「あれこれ考えすぎるより、やってみたほうが早いと思います。合わなかったら、それはそれでいいし」

「やる前から大変だと思い込まないほうがいい。まずは触れてみる。すると案外できてしまう人はいると思う」

言われてみると確かにそんな気がするのは、富松さんの高齢者との接し方が、家族のように自然だからだろう。

インタビュー写真

介護の仕事を始めたのはたまたま。
でも、続けるって決めたのは自分だった。

富松さんは、最初から介護職を目指していたわけではない。
プロレスラーとして活動していたが病気や大ケガにより、引退を余儀なくされたのだ。実家の革製品製造も、不況で続けられなくなった。生活のために始めたアルバイト。
その職場のつながりで、声をかけられた。

「資格なくてもいいから、やってみない?って言われて、たまたま来たのがここだった。本当に、たまたまです」

けれど、たまたま始めた仕事を、10年以上続けて、管理者になる人は多くない。

未経験、無資格。できることは限られていた。

「だから、取れる資格は取ろうって思いました」

格闘技の練習の合間に勉強し、初任者研修、実務者研修、介護福祉士へ。見事に合格した。

「試合の頻度が落ち着いてた時期だったんで、今しかないなって思って集中して勉強しましたね」

どうせやるなら、ちゃんとやる。決めたら突き進む。
その姿勢が、仕事の幅を広げていった。
毎月の給与がある。生活が安定する。だから、焦らず、次の選択を考えられる。夢を追いながら、生活も守れる。
その現実が、彼女の背中を支えていた。

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格闘技の“察知能力”が、
利用者さんの危険を先に見つける。

格闘技は、相手の変化を読む競技だ。次に何を仕掛けてくるか。
疲れているか。集中力は落ちていないか。
一瞬の判断ミスが、大きな怪我につながる世界。
その感覚は、介護現場でもそのまま生きている。

「朝からちょっとテンション違うなって人、分かるんですよ。
そういう日は、だいたい何か起きる。だから今日あの方、要チェックだねって言ったりします」

パソコンで記録を打ちながらも、視線と耳はフロアに向いている。
鉛筆が落ちる音。椅子を引く気配。立ち上がる一瞬の間。

「危ない瞬間って、本当に一瞬なんです」

介護は、優しさだけではできない。必要なのは、先に気づく力。
19年間、別の場所で磨いた感覚が、今は誰かの安全を守っている。

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管理者になって芽生えたのは、
「家族の安心」まで支える責任。

現在、富松さんは管理者として現場を支えている。
介助だけでなく、スケジュール作成、シフト管理、新規契約、記録、調整。

「現場だけやってればいいわけじゃないんですよね」
「利用者さんだけじゃなくて、ケアマネさん、ご家族。そこの“つながり”が大事だと思ってます」

送迎時の一言を欠かさない。

「今日はこんなことしましたよ」

小さな情報共有が、家族の安心につながる。

「安心できないと、任せようって思わないじゃないですか」

信頼が積み重なり、紹介につながる。
自転車で契約に向かう姿も、この地域ではおなじみだ。

「電動じゃないです。お金ないんで。でも足は鍛えられる」

その軽やかさが、現場の空気をやわらかくしている。

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両立できる理由は“根性”ではなく、
仕組みと人間関係だった。

夢と仕事を両立する話は、どうしても美談にされがちだ。
けれど富松さんが語るのは、もっと現実的な話だ。

まず、シフトの柔軟性。
試合が決まれば、三日前は休むと先に伝える。急な海外遠征で、一週間休んだこともある。
それでも、職場は回った。

「みんなが協力してくれました」

代表も柔道家。挑戦への温度感が近い。書類の電子化も進み、業務を分散できる体制づくりが進んでいる。

「偏りが出ちゃうと、続かないですから」

もちろん苦労もある。

「一番大変なのは、シフトづくりです」

それでも、休みは“権利”だと考える。

「私も休むから。だから、みんなの休みも守りたい」

両立は、個人の気合いではなく、チームの設計で成立する。

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顔面骨折の翌日も出勤した。
どっちも手を抜きたくないから。

試合で顔面を骨折した、その翌日。マスクとメガネで顔を覆いながら、いつもと同じように職場に立っていた。

取材でその話を聞いたとき「無理してませんか?」
という言葉が、喉元まで出かかった。
でも、その問いは必要なかったのだと思う。

「仕事をしてから試合をするのが、自分のスタンスなんです」

淡々とした口調だった。武勇伝のように語るでもなく、
特別なことをしているという自覚もなさそうだった。

認知症の利用者さんが、ふと富松さんの顔を見てこう言った。

「メガネしてた?」

その一言に、富松さんは少し驚いた。

「意外と、みんな見てるんですよね。そこからもう普通に仕事して、
もうめんどくさいから顔面折れてます!とか言ったら大丈夫?って
びっくりされましたけど、意外と騒がれない」

取材をしていて印象的だったのは、彼女が頑張っている人として扱われることを、どこか避けているように思えたことだ。

派手に見えるのは、試合の日だけ。リングの上でスポットライトを浴びている時間は、彼女の人生のほんの一部にすぎない。
本当の強さは、日常に戻っても、崩れないこと。
いつもの場所に立ち、いつもの人と向き合い続けること。

最後に仕事で夢をあきらめかけてる人へメッセージをくれた。

「周りのせいにしてやめるより、まず動く。やりたいことがあるなら、なんとしてでもやる。そしたら、環境がついてくるかもしれない。私に言えるのはそれだけですね」

その言葉は、夢を追う人への檄というより、自分自身に何度も言い聞かせてきた言葉のように聞こえた。

介護は、夢をあきらめるための仕事じゃない。
夢を続けるための“土台”にもなれる仕事だ。

そのことを、富松さんは、声高に語るのではなく、日々の立ち姿そのもので示している。

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続けている人の背中には、言い訳がない。

with NOTE|編集後記

取材中、富松さんは何度も「特別なことはしてない」と言った。
格闘家として19年続けてきたことも、管理者としてデイサービスを回していることも、どこか日常の延長のように語る。
けれど、現場での立ち姿を見ていると、その言葉が謙遜ではないことがよく分かる。

ある日のレクリエーション。
富松さんが前に立ち、少し大きな声で注目させた。
「今日は何日でしょう?」利用者さんたちが一斉に顔を上げる。
「12月18日です。では何ができた日か、分かる人いますかー」
一人の利用者さんが答えた。「東京駅ができた日」
その瞬間、拍手が起きた。間髪入れず、次の話題を投げる。
「じゃあ、塗り絵コンクールで入賞した人を発表しまーす!」
また拍手。空気が一気に明るくなる。

特別な演出をしているわけではない。声を張り上げて仕切ってるわけでもない。ただ、前に立つだけで、場の温度が変わる。

格闘家として、何万人もの視線を浴びてきた経験。勝ちも、負けも、ケガも、重ねてきた。そのすべてが、介護の現場で人の注目を集め、安心させる力として自然に表れていた。

夢を追い続ける人は、強い意志がある特別な人だと思われがちだ。
でも富松さんを見ていると、そうではないことに気づかされる。
必要なのは、続けられる場所があること。戻ってこられる仕事があること。そして、今日をちゃんと生きられる生活があること。

「やりたいことは、まずやってみる」その言葉の重みは、続けてきた人の背中から、静かに伝わってきた。
生活の中に、きちんと置ける仕事が夢を後押ししてくれる。
富松さんの働き方は、その一つの答えだと思う。

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