社会福祉法人奉優会
介護WITHクリエイター
介護福祉士の資格取得を目指し、<優っくり小規模多機能介護奥沢>で介護の仕事に励む佐藤公大さん。中学生の頃から音楽制作とダンスを続けていて、音楽をストリーミングサイトで配信したりダンスバトルイベントに出場したりと、クリエイターとしての活動にも力を入れています。
1日のタイムスケジュール
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10:00
介護の仕事 勤務開始
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19:00
勤務終了
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21:00
ダンス練習
音楽とダンスを続けながら、導かれるように介護の仕事に
「こんにちはー!」
世田谷区の小規模多機能介護事業所に伺うと、15人ほどの高齢者の輪に入り、明るく声をかける男性がいました。
「これから音楽を流すので、音楽に合わせて僕の動きを真似してくださいね」
介護の現場ではおなじみともいえる運動の時間です。ただ、ユニークなのは、流れる音楽が“ローファイ・ヒップホップ”だったこと。実はこの音楽は、輪の中で運動指導をしている介護スタッフ、佐藤公大さんが制作したものなのです。
音楽に合わせて見本を見せる佐藤さん
佐藤さんが音楽制作を始めたのは中学生のとき。友達の影響で当時流行っていたボーカロイドを聞くようになり、自分でも作ってみたいと思ったそうです。
佐藤さん
僕は楽器ができないので全部パソコンのアプリで、ハウスやEDM系の曲を作り始めました
高校生になると、もう一つ、佐藤さんにとって大きな出会いがありました。それはストリートダンス。姉と友達が習っていたことがきっかけでした。その後大学に進学し、ダンスサークルに所属します。
佐藤さん
授業をサボってダンスを練習したりとか、家に帰って音楽制作したりとか、そっちのほうに没頭してしまいまして(笑)。結局、卒業単位が足りずに退学する形になってしまいました
漠然と、音楽で食べていきたいという思いがあり、ストリーミングサイトで配信するなどしていましたが、やはり安定した収入は必要です。でも当時はちょうどコロナ禍。なかなか仕事は見つからず悩んでいました。
佐藤さん
求人サイトで働きたい職業を登録していて。居酒屋とか、ナイトクラブのバーテンダーとか。そこに、介護の仕事も入れていました
バーテンダーと介護職。振り幅の大きさに驚きますが、佐藤さんにとっては自然なことでした。
佐藤さん
実家には90代の祖母がいまして。認知症で、その介護で両親が苦労しているのを見ていました。ゆくゆくは自分が介護しなければ、という思いが心にありました。そのタイミングで奉優会から面接のオファーが来たので、これはやったほうがいいのかもしれないと思ったんです
とても穏やかな雰囲気の佐藤さん。
「自分で言うのもなんですが、おおらかなほうだと思います」
介護の仕事は、自分の生活の延長線上にあるもの
現在、介護の仕事を始めて4年目の佐藤さん。事業所での食事や入浴、排泄等の生活のサポートをするほか、訪問介護で掃除や買い物の同行なども行っています。
佐藤さん
働く前は、専門的な知識や技術が必要な難しい仕事だと思っていました。ただ、実際に働いてみると、研修や経験を積むことで成長でき、多くの人が活躍できる仕事だと感じました。もちろん、介護には専門知識や資格が求められますが、それは安心して支援するために必要なことです。技術だけでなく、人との関わりや信頼関係が大切な点も魅力のひとつ。介護は決して特別なものではなく、私たちの暮らしと深く結びついた、やりがいのある仕事だと思います。」
例えば排泄の介助。最初は自分にできるとは思えなかったそうです。
佐藤さん
働いてみると、自分が利用者さんの生活の一部になる感じがしました。お手伝いすることが助けになって喜んでいただけるなら、全然なんともない
あらためて介護の仕事の魅力について伺うと、笑顔になって、「『ありがとう』と言っていただけること」と佐藤さん。
佐藤さん
送迎もやっているんですが、僕自身が車内が静かなのは嫌なほうで、勝手に利用者さんも賑やかなほうがいいんじゃないかなと思って、音楽を流したりおしゃべりをしたりしているんです。例えば、神経を落ち着かせるような音楽をかけたり、利用者さんのリクエストを聞いてかけたり。以前、カーペンターズがすごく好きな利用者さんがいらっしゃって、僕が送り迎えのときには『佐藤さん、あれ、かけてよ』って言われて流していました。そうしたら、ご家族に『あなたが送り迎えして帰ってきたときは、うちの人すごい元気なのよ』と言われて、そのときはすごく嬉しかったですね
クリエイティブな活動がオープンにできる環境だから働きやすい
仕事は、夜勤もあるシフト制。ダンスの練習は仕事終わりに週に2回ほど、大学時代からのダンス仲間と一緒にスタジオを借りて行います。時には夜通し練習することも。そして年に数回、ダンスバトルのイベントに出場しています。
自分のダンスについて「人間離れした動きが多い」と佐藤さん
佐藤さん
ちょうど先日もダンスバトルのイベントがあったんですが、周りの人がうますぎて、萎縮しちゃって全然踊れなくて……。まだまだ悔しい結果ばかりですね。よく言えば“のびしろしかない”という感じですかね(笑)
一方、音楽は一人で、自分のアイデア次第。アイデアが浮かんだら、パソコンを開き制作に入ります。仕事中にメロディが浮かんだときなどは、頭の中で覚えておいて休憩時間にスマホにメモしたり録音したりするそうです。これまで、オリジナル曲やリミックスを配信していますが、J-POPと歌謡曲とのリミックスでは10万回再生を達成したものもあります。
音楽制作はパソコン1台で行う
佐藤さん
ダンスも音楽も、芸術全般に言えることだと思うんですが、自分の中にあるものを外に出す、アウトプットできるっていうのが魅力だと思います。それに共感してくれる人がいたらなおのこと嬉しいです。僕の作った音楽を利用者さんに聴いていただいたことがあるのですが、一曲すごく好評で、出勤するたびに『あの曲、また聴きたいわ』と言っていただいて、本当にシンプルに、ただただ嬉しかったですね
クリエイターとしての活動について、佐藤さんは介護の仕事の場でオープンにしています。上司や同僚のかたも理解があり、活動に合わせて勤務時間の調整や休暇を利用しているそうです。
佐藤さんが働く奉優会がこうした“介護WITH”な働きを支援するのは、働きやすい環境を作ることが長く安定して働いてもらうことにつながると考えているから。支援の一つの形として、地域と協力して開催された福祉イベント「極楽フェス」では、佐藤さんが利用者さんや同僚の前でダンスを披露する機会も設けたそうです。
地域の福祉イベント「極楽フェス」でダンスを披露する佐藤さん
介護の現場で流す音楽を工夫
介護の仕事は、佐藤さんのクリエイターとしての活動にどんな影響を与えているのでしょうか。
佐藤さん
あくまでも僕の考え方、僕の捉え方なんですが、認知症の方は短期記憶が難しく、“その瞬間を生きている人”と思っているんです。だから僕が考え付かないようなアイデアが会話の中でぽっと出てきたり、突拍子もないことを言ったりする。そこからクリエイティブな発想につながることもあります。以前、僕が踊っている動画を利用者さんに見てもらったんですが、その直前に利用者さん同士でお弁当の話をしていたらしく、一人の利用者さんから『お弁当ダンスでいいんじゃない』って言われたんですね。僕が考えもしないことだったので、そういう考え方があるのか!と。インスピレーションをもらっています
また、クリエイターとしての活動を、介護の仕事に生かすこともあるそう。冒頭でも紹介した運動のレクリエーションでは、ダンスを通して身体のつくりを理解できていることが役立っています。また、夜勤のときには、流す音楽によって利用者さんの眠りの深さが違うと感じ、音楽を工夫しています。
佐藤さん
例えば僕が好きなローファイ・ヒップホップは、ビートがしっかりあるけれど音は落ち着いていて、神経を落ち着かせると言われています。そうした音楽を調べて、夜流すと、いつもより利用者さんの寝つきがいい気がしています
タブレットを使い、運動で使う音楽を選ぶ
人懐こい笑顔の佐藤さん。利用者の方との会話が弾む
僕は楽器ができないので全部パソコンのアプリで、ハウスやEDM系の曲を作り始めました