INTRODUCTION
人材派遣事業を営むスタッフサービスグループにおいて、2015年に特例子会社であるスタッフサービス・ビジネスサポートの在宅就労事業として発足し、重度障害のある方々の就労を推進するために全国規模でのテレワーク雇用を実現してきたスタッフサービス・クラウドワーク。九州エリアでの8名の採用からはじまった同社は現在、600名を超える雇用を実現するまでに至っています。取り組みにあたっての想いや現場での工夫、そこで見えてきた障害者雇用の新しい形、今後の展望について、同社の歩みに深く関わってきた岡崎様、酒本様のお二人にインタビューします。
(今回は全4回連載の第2回目です)
テレワークだからこそ、
想像以上の可能性が広がっている。
定着率98.4%を支える取り組み。
― テレワーク雇用の立ち上げは九州エリアからはじめられたということですが、これには理由があったのでしょうか。
岡崎様:たとえば東京や神奈川といった首都圏は、地方に比べれば通勤環境が整っています。交通手段がなく、通勤に困っている人は、地方の方がよりたくさんいるのではないかと考えたのです。通勤環境、雇用機会の少ない地方の雇用を広げようという視点もありました。
― 現在、在宅社員の方々はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
酒本様:はい、2025年5月時点で在宅社員は594名おり、北海道から沖縄まで全国各地に在籍しています。就労者の推移を見ると、2016年に九州エリアの8名からスタートして、2025年6月現在の社員数は600名を超えています。 特に1年目の定着率が98.4%と非常に高く、2年目、3年目も90%台を維持しています。一般企業における入社1年後の身体障害者の平均定着率が60.8%と言われていますので、これを大きく上回ることができています。
― 素晴らしい数字です。
酒本様:最近ではどこに行っても、お褒めの言葉をいただけるようになりましたね。様々な障害特性のある方に働いていただいており、年代別でみても、60代の方が10%を超えています。幅広い障害のある方が就労できているのも、テレワークを活用した就労モデルだからこそと思っています。
― この高い定着率を実現するために、どのような取り組みをされているのでしょうか。
酒本様:いくつか施策を打っています。 まず当たり前のことですが、就労というのは採用して終わりではなく、定着することがとても大事です。私たちは一般企業であり、福祉ではないので、在宅社員は一企業人として成長し、障害特性に配慮しつつも、一戦力として活躍してほしいと思っています。
柔軟なシフト制で、一人ひとりの「働く」を支える。
酒本様:まず一つ目の施策が、柔軟なシフト制の導入です。私たちの仲間は全員が重度身体障害者であるため、生活していく上でヘルパーさんからの介助や通院の時間が必要になります。そのリズムに寄り添う必要があります。現在は、個人個人が休憩や勤務時間を自由に決められる仕組みにしており、これにより、就業前の生活サイクルを崩さずに安定的に働くことができ、仕事と生活を両立できる環境を提供しています。このシフトパターンは現在約250種類にも及びます。例えば、最も一般的なシフトの他に、生活介護の時間を途中に挟んだり、通院に合わせて調整したりと、その方に合わせたカスタマイズが可能です。テレワークの利点は、生活のすぐ近くに職場があることですが、この柔軟なシフト制があってこそ、そのメリットはさらに生かされると私たちは考えています。
― 250種類ものシフトがあるのですね。管理は大変ではないでしょうか。
岡崎様:シフトは入社時に、どのような時間で働くかを決め、その時間で契約します。もちろん、介助の時間や通院の時間も考慮し、安心して働けるシフトを最初に設定します。管理方法については、現場に駐在しているスタッフがWeb管理システムをチェックし、出勤・退勤の打刻がされているか念入りに確認しています。たとえば、始業後に通院に行かれる方もいらっしゃいますが、通院前後に報告を受けることで、システム上で適切に管理されています。シフトをきっちり管理することは非常に重要です。私たちのチームでは、日に3回の定時ミーティングがあり、そこでメンバーの出欠状況を確認できます。シフトはクルー全体で共有されているため、事務所の人間だけでなく、多くの目で見守られています。「フルフレックスにすればいいのでは」と思われるかもしれませんが、テレワークでは時間のメリハリをつけることが難しくなりがちです。 そのため、あくまで前月末に提出したシフトに沿って出勤・退勤をつけ、遅刻や早退、欠勤についてはきちんと管理することで、在宅だからこそ時間の概念をしっかり持ってもらうようにしています。 これが在宅勤務を進める上で非常に大切なポイントです。
― シフト管理がしっかりしているからこそ、社員の皆さんも仕事のメリハリをつけられるのですね。チームミーティングで、その日のシフトで参加しないメンバーがいても、他のクルーが把握しているというのは安心ですね。
岡崎様:その時間帯にこのメンバーは参加しないということを、他のクルーも理解しています。 これは安全配慮義務の観点からも非常に重要です。 自宅で万が一のことがあった場合でも、この2時間に1回のミーティングで異変に気づくことができます。 シフトには業務進捗の確認だけでなく、孤独感の解消、そして安全配慮という大きな意味があります。 打刻がない場合はすぐに電話で状況を確認し、何かあった可能性も考慮してチェックしています。

Webでのコミュニケーションに慣れることが第一歩。
酒本様:二つ目が、コミュニケーションスキルの装着です。入社から1ヶ月間はWebコミュニケーションに慣れるための研修を実施し、働くペースや業務を遂行する上での基本スキルを身につけてもらいます。グループワークを中心に、同期との絆もここでしっかりと深めてもらいます。2ヶ月目には、各エリアの先輩社員から業務研修を受けながらコミュニケーションを取る訓練を行い、3ヶ月目には十分にコミュニケーションが取れる状態にしてチーム配属という流れになります。研修に2ヶ月もの期間をかける企業はあまりないかもしれませんが、社会とつながることが初めての入社者もいらっしゃるため、心構えも含め、最初の2ヶ月間はじっくり丁寧に実施しています。
― 導入研修は特に工夫が必要だと思いますが、貴社での具体的な事例があればお聞かせください。
酒本様:そうですね。社会人としての心構えやシステム入力方法など、様々な研修がありますが、何よりもWeb環境に慣れてもらうことが重要だと考えています。リアルでの会話とは異なり、自分から発信しなければ伝わらないことも多いため、入社した方々には積極的に声を出して話してもらうよう促し、活気のある時間になるよう工夫しています。また、以前は管理スタッフが研修を担当していましたが、現在は当社の在宅社員が講師を務め、実際に当事者同士で密にコミュニケーションを取りながら進めています。
― 在宅社員の方が講師を務めることで、よりリアルな学びが得られそうですね。
「雑談」を、ルールにしてしまう。
― その他に、社員の定着のために重視していることはありますか?
岡崎様:はい。他には、常に孤独感を解消する取り組みを重視しています。 9年前、私たちがテレワークを始めるにあたって、実際に数名のスタッフでテレワークをしてみたのです。そうすると、まったく一人ぼっちになってしまって、仕事にならない。共に働く仲間とのコミュニケーションの取りづらさからくる不安感が、従業員の定着においてはとても大事な要素だと気づきました。そこで目指したのは、テレワークであっても人とつながりながら働ける環境です。 まるで隣に同僚がいるかのように、仲間とのつながりを感じられる職場づくりです。
― 実際に自分たちの身をもって試したからこそ気づけたことがあったのですね。
酒本様:孤独感の解消に向けて、当社の最も大きな特徴と言えるのが「チーム制」です。 私たちは一人で黙々と働く内職的なスタイルではなく、障害のある社員同士がチームを組み、仲間と連携しながらイキイキと働ける組織や、体調不良などがあってもサポートし合える環境づくりも行っています。日常的なコミュニケーションを活性化するため、一日3回、各20分のWebミーティングを開催しており、そのうち約半分の時間は必ず「雑談をする」というルールをつくりました。毎日顔を合わせ、通勤型の職場と同じように他愛ない会話をすることで、信頼関係が生まれ、ちょっとした仲間の変化に気づいたり、何かあった時に発信しやすくなったりします。Web環境上であっても、イキイキと働くベースとなっているのがこの雑談を取り入れたチームミーティングだと思います。社員の中には座位が保てず、横になりながら仕事をする方もいます。 みんながそれぞれの特性に合わせ、自然とサポートし合う雰囲気です。 司会も当番制で在宅社員が行っており、障害特性から声を出すまでに時間がかかる方もいますが、チームメンバーはその方が発言するのをちゃんと待っている。このような職場づくりは心理的安全性の向上につながり、仕事のやりがいや成果にもつながっています。
(第3回に続きます。次回は「具体的な業務内容や独自の制度」についてお伺いします)
Profile岡崎 正洋 / スタッフサービス・クラウドワーク シニアアドバイザー
新卒から人事系を中心に経験を積み、2003年5月スタッフサービスグループの人事部門にキャリア入社。人事労務担当を務める。2012年からスタッフサービスグループの特例子会社であるスタッフサービス・ビジネスサポートに着任。2015年9月にスタッフ3名で在宅就労事業(現在のスタッフサービス・クラウドワーク)の立ち上げを担当。以降、九州、近畿、関東、東北、東海エリアと拠点設立を歴任。2023年8月に定年退職後、同社シニアアドバイザーに着任。
Profile酒本 速男 / スタッフサービス・クラウドワーク エリア統括部 ゼネラルマネージャー
2004年にスタッフサービスに入社。医療介護領域のメディカル事業本部にて、人材サービスの営業に携わる。2020年より、スタッフサービス・クラウドワークに異動し、北海道・東北・関東のエリア責任者を務める。テレワーク活用による障害者雇用の推進と事業拡大に従事。