INTRODUCTION
OKI(沖電気工業株式会社)の特例子会社として2004年に設立されたOKIワークウェルは、「通信」というOKIグループの強みを生かし、重度身体障がい者の在宅雇用を全国規模で推進してきました。社員一人ひとりの個性と能力を最大限に引き出す環境をつくり続けています。同社の設立背景から、独自のバーチャルオフィスシステム開発、そして社員の成長を支えるきめ細やかな取り組み、さらに未来への展望まで、その歩みに深く関わってきた加藤哲義様にお話を伺いました。
(今回は全3回連載の第3回目です)
歩み寄るのではなく、自ら変化できるような機会をつくる。
― お仕事される中で、特に大事にされていることはありますか?
加藤様:障がいのあるないに関わらず、好きなことって夢中になってやるじゃないですか。だから、仕事が好きになるように、仕事をする意味を教えることが大事だと思っています。「なぜ働くの?」というところです。学生向けの講演会で話す時にも言うのですが、「ゲームするために働く」でもいいんです。美味しいものを食べたり、旅行に行ったり、ゲームを買ったり、そういうために稼ぐんだ、それでもいいのだと思います。そして、仕事をすることで何かを得られる、自分が成長できるという発想を持っていると、きっと仕事が長続きし、仕事が好きになります。あるいは、自分の得意なことをずっとやっていれば、それが好きになる。好きなことをみんなやっていこうよ、というのを私は大事にしています。
― 好きだから続けられ、上達もするということですね。
加藤様:障がいという視点から言えば、苦手なことやできないことに焦点を当てるのではなく、本人が「できること」に焦点を当てて、そこを一生懸命応援してあげることが大切です。当社の事業も、ホームページ制作ができる社員がいたからホームページの事業が成り立ち、似顔絵が描ける社員がいたからデザインの事業が成り立ちました。社員がいて、その能力があるから事業が成り立つ。そこが一番大事だと考えています。
― できることに目を向けることが、社員の皆さんの可能性につながる。
加藤様:はい。例えば、入社して10年間清掃業務をしていた社員がいました。「30年後はどんな仕事をしていたい?」と聞くと「今と同じ清掃業務」と答えてくれました。私は少し困惑しました。しばらくして、彼に私がしているようなパソコンの仕事に興味はないか聞くと、やってみたいと言ってくれました。コツコツ真面目に仕事をする彼にパソコンは向いていると思ったからです。今ではパソコンを使った仕事をし、求職者にパソコン事務を教えています。その社員はこれまで、学校などでも清掃を教わってきたので、その通りのことをただやってきたのです。パソコンの仕事について教わる機会がなかった。でも、やってみたらできるじゃないかと。これまでの障がい者雇用や教育は、障がい者に寄り添って教える、できることをお願いするという、「こちらが環境を合わせていく」という考え方が主流です。もちろん大事なことですが、障がいのある方に「情報」や「機会」を提供することで、その方が自ら歩み寄ってきて変化する。素敵なことじゃないですか。たくさんの可能性があるんです。どんな障がいがあっても、我々が情報を提供し、機会を与え、そしてほんの少しの時間「待ってあげる」こと。これが何よりも大切だと思っています。
― 合わせるのではなく、歩み寄ってくる。新しく本質的な視点に思えました。
加藤様:社員には、会社から「この事業を大きくしたいから、こっちに来て一緒にやらないか」と声かけをすることもありますし、社員から「そろそろ違う仕事がしたい」「あっちに興味がある」といった異動の希望も受け付けています。個人のキャリアと会社の事業拡大、両方の側面から機会を提供しています。
― 人の力を、事業の力に変えていく、まさにお手本のようです。
加藤様:あとは、私は障がい者扱いをあまりしないですね。社員がどんな障がいを持っているかは、あくまで、その人ができることを判断する上での補足情報として捉えているのかもしれません。リモートワークには、相手が見えないからこそ、変に障がい者扱いしないという良さもあるんです。隣にいたら、きっと過剰に配慮してしまうでしょう。「いいよ、私がやるよ」と言ってしまうかもしれない。しかし、リモートで見えないからこそ、対等な距離感で接することができる。それがメリットだと感じています。ただ、見えないからこそ、社員がどのような状態で働いているのかは常に頭に入れておかなければならない難しさもあります。それでも、メリットの方がはるかに大きいと思っています。

人生の時間の中で、この会社で働くことを選んでくれるのだから。
― これから会社として、どのようなことにアプローチしていこうとお考えですか?
加藤様:OKIグループに貢献し、グループ全体の障がい者雇用率を上げていくことが重要で、特例子会社として一番のミッションです。ただ、世の中的に障がいのある方々の賃金はまだまだ低いという現状があり、その賃金水準を上げていきたいという思いがあります。社員の給料を上げていくには、グル-プの仕事をしながらコツコツスキルアップをして、外部の仕事も受託できる技術を有し、会社が利益を出し続けるように売上を上げていくことが必要になります。外部からの売上を増やしていくことで、みんなにお給料で還元していきたいと考えています。そのためにも、新しい事業を創出することに力を入れていきたい。ホームページデザインやプログラミングといった既存の事業以外にも、きっとできることがあるはずです。能力のある人を見つけ、その能力を育み、これまで事業化してきたように、新たな業界や業務を見つけて事業化していく。教育事業も、かつては小さな事業でしたが、この10年で大きく成長し、外部の柱となる事業になりました。十年一昔と言いますが、この先の10年でまた一つ新しい事業を作り、社員が楽しく、そしてさらに笑顔になれるような会社にしていきたいですね。
― これまで関わってこられた中で、印象に残っているエピソードやお話があれば教えてください。
加藤様:採用面接で、一度不採用にした方が、諦めずに「どうしてもOKIワークウェルじゃなきゃダメなんです」と再度応募してきたことがありました。一人じゃなく複数人です。私は、その熱意に打たれて、その方々を採用しました。結果的に、その社員たちは今、活躍しています。これまで働いてきて、社員が亡くなり、心を痛めることや、葛藤することもありますが、「働いていることで、社会に認められている」と社員たちが話しているのを聞くと、私も奮い立たされるのです。10年前に外から見ていたOKIワークウェルと、中に入って関わって感じることは、同じです。人生は有限で、何を自分の人生の時間として使っていくかという選択の中で、我々は「働く」ことを選んでいます。それならば、私は精一杯、みんなと共に働き、共に成長していきたいと思います。
― 最後に、皆さんに伝えたいメッセージがあればお願いします。
加藤様:私自身、会社に行きたくないと思った日はあまりありません。現場を離れた寂しさはありますが、現場を指導するリーダーたちに、私のこれまでの経験や思い、そして「ここが大切なんだよ」ということを伝えていくことが、これからの自分の役割だと考えています。私の長男も障がいを持って生まれて、今も車椅子を使っているのですが、それがやはり大きかったですね。自分の子供を障がい者だとは思わない。それが一番だったのだと思います。毎日現場に行けば、障がいのある社員が働く姿を見ることになりますが、みんなは私たちが思うほど自身の障がいを意識していないのではないでしょうか。それが普通で、それでいいのだと思います。

(OKIワークウェルの連載は今回で終了です。ありがとうございました!)
Profile加藤 哲義 / OKIワークウェル 事業部長
通信・情報通信分野での開発経験を持つ。OKIワークウェルでは、独自のバーチャルオフィスシステム「ワークウェルコミュニケータ」の開発に携わり、在宅勤務の現場を支える。現在は事業部長として、障がいのある社員への深い理解と寄り添う姿勢で、社員の成長と自立を力強く後押ししながら、新たな事業領域の開拓にも尽力している。精神保健福祉士・社会福祉士・介護福祉士の資格も持つ。